コラム

地方創生の視点から注目される若年女性
矢島 洋子/三菱UFJリサーチ&コンサルティング

2025/07/28

地方創生の視点から注目される若年女性

令和7年6月に閣議決定された「地方創生2.0」では、「基本姿勢・視点」として、「若者や女性にも選ばれる地域づくり」が掲げられている。背景として、これまでの取組みの中で、「若者や女性の地方からの流出に歯止めがかかっていない」という問題があり、その要因は、「地域に魅力的な職場がないことや、アンコンシャス・バイアス等に対してアプローチできていなかった」ことではないかと指摘されている。

1.女性が地方から転出する理由

こうした問題提起は、国からだけでなく、すでに多くの自治体からもなされている。特に、若年女性の地方からの転出に注目が集まっており、メディアなどでも取り上げられている。東京圏への転入超過率は、男性よりも女性の方が高い。10代後半、20代の進学や新卒就業での東京圏への転入が多いだけでなく、その後、地方に戻らず留まる割合も女性の方が高い。従って、人口減少に危機感を抱く地方として、若年女性の流出を防止したい、あるいは、戻ってきてもらいたい、として、様々な施策を実施している。

では、なぜ、男性よりも女性の方が地元を離れて都会に転出し、留まるのだろうか。内閣府が行った調査で、出身地域を離れた理由を聞いたところ、男女ともに最も多かった項目は、「希望する進学先が少なかったから」である。同時に、この回答は、女性と男性の回答割合の差が最も大きなものでもあり、最も差の大きな項目でもあり、女性により多い動機となっていることがわかる。「地方創生2.0」のレポートが指摘する「魅力的な職場」については、本調査の選択肢でいえば「やりたい仕事や就職先が少なかったから」という項目が近い意味合いと考えられるが、これについては男性の方が回答割合が高い。「アンコンシャス・バイアス」については、「多様な価値観が受け入れられなさそうだったから」「女性だから、男性だからという偏見があったから」という項目でみると、回答割合自体は低いものの、女性の方が男性よりも回答割合が高い。また、「希望する進学先が少なかった」の次に女性と男性の回答割合の差が大きな項目である「地元から離れたかったから」を選択した女性が同時に選択した項目をみると、同理由を選択した男性に比べて、「親や周囲の人の干渉から逃れたかったから」、「給与・年収が高い仕事が少なかったから」、「多様な価値観が受け入れられなそうだったから」の選択割合が高くなっている(※1)。性別に関する偏見に限らず、周囲の干渉や価値観の受け入れられなさ、といった生きづらさを、感じている人が、女性の方により多いようだ。

一方、多くの自治体が取組みを進める「仕事と子育ての両立支援」については、転出理由として挙げる割合は低く、わずかではあるが、男性の方が回答割合が高い。子育てとの両立については、直接的な転出理由とはなっておらず、また、なっていたとしても、女性に限った問題ではないことがわかる。

図 出身地域を離れた理由:東京圏以外出身で、現在は東京圏に住んでいる者のうち、自分の都合で出身地域を離れた者(男女別) 複数回答

図 出身地域を離れた理由:東京圏以外出身で、現在は東京圏に住んでいる者のうち、自分の都合で出身地域を離れた者(男女別) 複数回答
図 出身地域を離れた理由:東京圏以外出身で、現在は東京圏に住んでいる者のうち、自分の都合で出身地域を離れた者(男女別) 複数回答

出所:「令和6年度地域における女性活躍・男女共同参画に関する調査」(令和6年度内閣府委託調査)より作成。
注:女性の方が回答割合の高い選択肢順に並べている。

2.「女性に選ばれる地方」というアピールの問題点

国は、「地方創生」の施策に「女性に選ばれる地方」になることを求め、地方も若年女性へのアピールを強めている。もちろん、選ばれるようまちとしての魅力を高めることは素晴らしいことだろう。ただし、そうした目的を、様々な計画や都市のランキングなどの指標とすることには疑問がある。若年女性が地方から転出することがあたかも良くないことのように見なされ、女性たちが罪悪感を抱いたり、周囲からのプレッシャーをこれまで以上に受け、女性の「地元を離れたい理由」を強める可能性があるからだ。

既存のデータは、大学進学した者のうち、地元の大学に進学した割合は女性の方が高い。若年女性を地方に留めようとする考え方が、こうした傾向に拍車をかけ、進学や就職における男女差を広げる可能性もある。「地方創生2.0」のレポートに掲載されている「1人当たり労働生産性と賃金の格差」の図を見ると、都市圏と地方部の労働生産性や賃金には、格差がある。労働生産性は、医療・福祉や金融・保険業で格差が大きく、賃金格差は、卸売・小売業や金融・保険業で大きい。いずれも女性の就労者の多い業界である。こうした状況が変わらないまま、地方に女性を留めようとする圧力が高まれば、政府が進める男女の賃金格差の解消も進まないことになる。鶏と卵の関係のようだが、順序は大事だ。あくまでも、性別に関わりなく、自由にライフプランやキャリアを選択できる自由を尊重した上で「選ばれる地方」になるための環境整備が期待される。

図 1人当たり労働生産性と賃金の格差(2020)

図 1人当たり労働生産性と賃金の格差(2020)
図 1人当たり労働生産性と賃金の格差(2020)

出所:「地方創生2.0基本構想」(令和7年6月13日閣議決定)

3.地方自治体に期待される役割

先に示したような労働生産性や賃金格差の問題は、地方自治体が直接対応できるものではなく、国も企業の取組みに期待している。仕事と子育ての両立支援やアンコンシャス・バイアスの解消についても、企業に期待されるところが大きい。では、自治体に期待されるのはどのような取組みだろう。それは、地域社会における「固定的性別役割分担意識」の解消に努めることであろう。性別役割分担の問題は、直接的には女性の転出理由にはなっていないかもしれないが、女性たちの感じる地元の閉塞感に含まれるものである。また、個々の企業が女性活躍やアンコンシャス・バイアスの解消を進める中で、突き当たっている問題でもある。特に、先進的に取組みを進める企業が、近年、問題意識を高めている。社内の性別役割分担を解消し、女性に積極的なキャリアを期待し、男女の賃金格差の縮小をはかろうとしても、地域や家庭内の性別役割分担意識が影響するという問題だ。例えば、「自治会の集まりなどで女性が準備やお酌をすることが当たり前になっている」、「地域のボランティア活動の参加者は女性が多いが、リーダーは男性」、「起業や地域おこしの活動でリーダーシップを発揮する女性はいるが地元の人ではない(地元の女性はリーダーとして立ちにくい)」といった状況から変えていかなければ、企業で働く社員の性別役割分担意識も変わらない。教育に携わる教師の働き方の男女差が大きければ、教育におけるアンコンシャス・バイアスは払しょくできず、固定的性別役割分担意識は、子どもたちに引き継がれてしまう。「女性に選ばれる地方」というスローガンで、出産や子育てを女性に期待する意図が透けて見えてしまえば、女性たちは地方には戻らない。女性にだけ着目するのではなく、企業が進めるようなダイバーシティ&インクルージョン施策、すなわち、多様性を受け入れ、性別に関わらず活躍できる環境づくりを地域社会においても推進していくことが、結果として、女性にも選ばれる地方になる近道となる。

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  1. ※1
    本調査の分析結果を掲載した内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書令和7年版」の分析による。

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矢島 洋子

三菱UFJリサーチ&コンサルティング
CDIO/主席研究員
矢島 洋子

1989年に三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社。研究員として、少子化対策の視点から、WLBやD&I関連の調査研究や政策提言、企業コンサルティングに取り組む。2004年4月より3年間、内閣府男女共同参画分析官。2018年7月に執行役員就任、2025年1月より現職。