プレイした人たちを没頭させるコレクティブインパクトゲーム
平本 督太郎/金沢工業大学SDGs推進センター所長
2024/10/17
コレクティブインパクトゲームとは、LWC指標を用いて、街の強みや弱みを特定し、企業・自治体・市民・教育機関が連携しながら、ウェルビーイングな街の実現を目指すゲームである。このゲームでは、多様なステークホルダーがお互いの立場を理解しながらwin-win-winの状況を実現するための重要なポイントを学ぶことができる。スマートシティ・インスティテュート、東京海上日動、LODU、金沢工業大学の4者共同で製品化を行っており、今後日本全国への普及展開を目指す。
本コラムでは、ゲーミフィケーション教材の重要性、コレクティブインパクトゲームの概要、そしてゲームによって学べるコレクティブインパクトの本質について3回にわたって解説する。
コレクティブインパクトゲームの概要とプレイヤーを熱中・没頭させる仕組み
コレクティブインパクトゲームは、4人のプレイヤーが協力して地域幸福度の向上を目指す協力型のゲームである。エリアダイス、分野ダイスという2種類の6面体のダイスを振り、6マス×6マスで構成される盤面上で該当するマス目のレベルをあげていくことで点数を獲得し、チームで高得点を目指すシンプルなゲームである。
このゲームはあらゆるプレイヤーを熱中・没頭させる魅力を持っている。体験会を実施すると、プレイヤーたちが放つ熱気で部屋の温度は急上昇する。そして、プレイ後は、その熱気がそのままLWC指標への興味・関心の高まりへと変換される。
皆がコレクティブインパクトゲームに熱中・没頭する理由の一つが「プレイ時間の短さ」である。プレイ時間は、中間にある作戦会議の時間を含めて最大17分である。この短いプレイ時間が時間に追われる切迫感を生み出す。限られた時間内に、何回サイコロが振れるのかが勝負のカギの一つになるからである。他方で、やみくもにサイコロを振っていても得点は思うようには上がらない。ゲーム内にはサイコロの目を指定できる戦略カードや、サイコロで出たマス目に加え、そのマス目の上下左右にある別のマス目のレベルを同時にあげることができるレバレッジポイントが存在する。例えば、レバレッジポイントをうまく活用し、レバレッジの連鎖を起こすことが出来ると、一回サイコロを振っただけで最大11点を獲得することが出来る。こうしたサイコロ以外の戦略ツールを戦略的に活用できるのかがもう一つの勝負のカギになる。戦略が上手くはまった際には、プレイヤーの熱中度・没頭度は急上昇する。人気ゲームのぷよぷよで連鎖が上手くいった時の感覚や、マインスイーパーで一気に広い面積を空けられた時の感覚に似た達成感や気持ちよさも得られる。
考え込まずにとにかく直感重視でサイコロを振るという行動を起こす、その行動によって新たに得られた手札を戦略的に使い、自分たちが描いたとおりの盤面を実現する。冷静と情熱の間で、直感と戦略の双方をうまく組み合わせることで、地域幸福度を向上していく、コレクティブインパクトゲームでは、そうした実社会における地域活性化の成功パターンをゲームの中で体感することが出来る。
コレクティブインパクトゲームの学びのポイント
コレクティブインパクトゲームには9つの学びのポイントがある。今回はそのうちの1つである「多様なステークホルダーが連携する際の成功のコツに関する学び」について紹介する。
このゲームには、キャラクターカードがあり、そこには市(区)民、教育機関、自治体、企業という4種類のステークホルダーが書かれている。4人のプレイヤーはそれぞれのステークホルダーになりきってプレイすることとなる。各ステークホルダーには個人ミッションが存在している。
| キャラクターの名称 | 個人ミッションの内容 |
|---|---|
| 市(区)民 | マトリクスカードを確認し、人口上位1位のエリアを全て4以上にする |
| 教育機関 | マトリクスカードを確認し、以下の教育に関連するいずれかの分野を全て4以上にする。 ▶初等・中等教育 ▶教育環境の選択可能性 ▶文化・芸術 ▶多様性 |
| 自治体 | エリアと分野の全てを1以上にする。 |
| 企業 | ダイス3回振りを振りエリア×分野の3つを7にする。 |
このゲームでは、基本的には全員で協力して地域幸福度の向上を目指すのだが、各ステークホルダーの個人ミッションを達成すると、各10点を加点として得ることが出来るため、とても有利になる。そのため、ゲーム内ではプレイヤー間で全ての個人ミッションを達成しようというインセンティブが働く。個人ミッションは、実社会におけるそれぞれの組織の特徴を反映したものとなっている。市民は多くの市民が住んでいる住宅地の幸福度の向上について、居住人口が少ない工場地帯よりも注力したいと思う。教育機関は地域内の教育関連分野の改善を願う。自治体は誰一人取り残さずに最低限の社会サービスを提供しなくてはと思う。そして、企業は自社の利益が上げやすい分野・地域に対して集中投資を行う。ゲーム内ではこうした組織によって異なる視点を全員で共有し、全てのステークホルダーのミッション達成を目指しつつ、地域全体の幸福度向上を実現しないといけない。
それぞれの視点の違いを共有し、win-win-winになるように皆で協力することは、コレクティブインパクトの実現を目指した取り組みだと言える。20分程度のゲームをプレイするだけで、そうしたセクターを超えた連携の難しさを理解できるとともに、皆が意識的に活動することでその難しさを難なく乗り越えることができるという自己効力感を得ることができる。実社会で異なるセクターの人が集まった際には、腹の探り合いのような状況になってしまうことが多い。それぞれの置かれている立場の違いを理解しあうことから始まる取り組みはとても少ない。しかし、このゲームをプレイすると、お互いを理解し合うことなしに、地域幸福度をうまく向上することなんて出来ないと思うだろう。こうした学びを通じて、社会変革を起こすために必要なマインドセットの変化を楽しみながら促せることが、コレクティブインパクトゲームの大きな魅力の一つだと言える。
コレクティブインパクトゲームとLWC指標の関係
さて、最後にコレクティブインパクトゲームのLWC指標の関係を説明する。コレクティブインパクトゲームでは、6マス×6マスで構成される盤面のうえでゲームが展開されていき、縦6マスがエリア、横6マスが分野となっている。エリアとは対象地域の人口上位3地区と下位3地区になっている。初期のゲームでは、野々市市、渋谷区、藤沢市、札幌市、福岡市、神戸市の6地域から対象地域を選び、各地域の人口上位3地区・下位3地区でプレイすることになる。しかし、オリジナルカードを作ることで、全国各地のどこの地域でもプレイすることが出来るようになる。そして、横マスは各対象地域におけるLWC指標(客観指標)の偏差値上位3つ・下位3つの項目となっている。すなわち、コレクティブインパクトゲームとは、LWC指標によって抽出された各地域の強みと弱みに注目し、対象地域内の地区の地域幸福度を向上していくことをシミュレーションするゲームだともいうことが出来る。ゲームのルール説明時には、このようにゲームとLWC指標が深く関係していることが説明される。すると、ゲーム終了時には、プレイヤーたちは自らが住む地域のLWC指標に関心を持つようになる。「果たして自分たちの地域の強み・弱みはどうなっているんだろう?」、「なぜ自分たちの地域は都市景観が強みになっているんだろう?LWC指標における都市景観の定義はどうなっているんだろう?」等、興味・関心が高まっていき、実際にLWC指標のデータベースを操作して分析してみたくなる。実社会においてデータを使って地域を活性化させる取り組みというと、「私は文系だからちょっと無理かも」、「ITは苦手だから自分には向かないかも」、と思ってしまう人も多い。しかし、アナログゲームであるコレクティブインパクトゲームが与える楽しさは、そうした人たちが最初の一歩を踏み出したいと自然に思える環境をデザインしてくれるのである。
次回のコラムでは、ゲームによって学べるコレクティブインパクトの本質を紹介する。
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金沢工業大学SDGs推進センター所長 平本 督太郎
経営情報学科教授。メディアデザイン博士(慶応義塾大学)。慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボ アドバイザー。The World Happiness Report で有名なSDSNの日本支部であるSDSN Japanの リーダーシップカウンシルメンバー。野村総合研究所入社後、日本政府・国連と連携しMDGs/気候変動対策における官民連携政策立案などをおこない、その実績により社長賞を受賞。金沢工業大学着任後、第1回ジャパンSDGsアワード官房長官賞受賞に大きく貢献。自動車リサイクル企業会宝産業の顧問として第2回ジャパンSDGsアワード外務大臣賞受賞にも貢献。著書『10歳からの図解でわかるSDGs』は1万部を超えるヒット作に。