コラム

Blue Economy が拓くスマートシティの可能性 #2
佐野 政徳/アビームコンサルティング株式会社 未来価値創造戦略ユニット

2025/03/13

Blue Economy が拓くスマートシティの可能性 - アビームコンサルティング株式会社

前回のコラムでは、2024年11月にスペイン・バルセロナで開催されたSMART CITY EXPO 2024においてBlue Economyが主要テーマのひとつとして取り上げられたことから、世界的にスマートシティに海洋の視点を取り入れることが不可欠であるという点をあげ、スマートシティとBlue Economyの交わる点について論じた。
スマートシティはテクノロジーを活用して持続可能で快適な生活環境を実現する都市モデルのことであり、Blue Economyの理念とも多くの共通点を持つ。その中でも、施策を検討する上で特に重要な2つの観点がある。
・関係者の協調の枠組みの形成(産官学連携・市民参加)
・データ連携と科学的根拠に基づいた議論
今回は上記2点に着目しながら、日本におけるBlue Economyの現状と今後の展望、そしてスマートシティとの融合アプローチについて考察する。

1.日本におけるBlue Economyの活動

日本と海の関わり

日本は海に関する様々な課題を抱えている。例えば長崎県対馬市には年間約3万㎥以上の海洋プラスチックが漂着しており、世界的に見ても多い量となっている。また日本の魚介類の年間消費量は1人あたり23.4kgと世界平均の20.5kgを上回っている。さらに、日本は輸出入貨物の99.6%を海運に依存しており、日本の船会社が実質的に保有する船腹量は世界全体の約11%を占める。この様に日本人の生活は海と密接に結びついている。
また、日本は四方を海に囲まれた島国であり、領海の広さは世界第6位を誇る。エネルギーや資源の輸送を海運に頼るだけでなく、造船業・漁業・養殖業などの海洋関連産業も規模が大きく競争力が高いことから、典型的な海洋国家といえる。
このような特徴を持つ日本は、多様な産業を有すると同時に、多くの分野で国際的な競争力のある企業が存在する。また、世界第12位の人口を持ち、国内市場も大きい。こうした条件を備えた国は世界的に見ても多くはない。このことから日本は海洋課題の解決に向けたユースケースを創出し、海外に発信することで、海洋問題の解決において世界をリードするポテンシャルを有していると考える。

日本におけるBlue Economyの活動

Blue Economyは海洋経済活動全般を指し、その対象範囲は漁業、観光、海洋資源の採掘・海運などの産業から、水産資源保護、海洋プラスチックごみ問題やCO2削減といった社会問題まで及ぶ。しかし、こうした分野全体を包括的にカバーする活動は世界的に見てもまだ少なく、日本においても海洋プラスチックごみの削減やブルーカーボンといった特定の分野に特化した活動が存在しているのが現状である。
これは、Blue Economyが扱う分野が多岐にわたり、相互に複雑に絡み合っているため、すべてに対応するのが困難であることが一因と考えられる。そのため、特定の課題に焦点を当てることで、取り組みを進めやすくしているのが現状だ。一方で、活動に参加する関係者は特定の課題に対するソリューションを持つ企業や団体が中心となるため、どうしてもその課題への対応が主眼にならざるを得ないという側面もある。
例えば、海洋プラスチックごみの削減を見ても、その対策は多岐にわたる。ごみの流出源対策、回収、再資源化、再利用といったサーキュラーエコノミーには多くの関係者が関わるだけでなく、海洋プラスチックを誤食する海鳥やウミガメへの影響、沿岸部の環境破壊、漁業への影響など、広範な課題が絡み合っている。そのため、すべての関係者をまとめながら活動を推進するのは容易ではない。
結果として、多くの取り組みでは、回収・再資源化・再利用にフォーカスし、その副次的な効果として生態系保全や漁業への影響を軽減するという形をとることが多い。これは、回収・再資源化・再利用はデータで成果を示しやすいのに対し、生態系や漁業への影響は複雑な要因が絡み、短期的なデータ測定が難しいという課題が背景にあると考えられる。
海に関するデータ活用については、次の章で詳しく述べる。

Blue Ocean Initiativeの紹介

アビームコンサルティング株式会社(以下アビームコンサルティング)は2024年7月よりBlue Ocean Initiativeに参加している。本イニシアチブは海洋問題の解決に向けて多様なステークホルダーとの共創(オープンイノベーション)を創出するアクションプラットフォームである。

Blue Ocean Initiative | ブルーオーシャン・イニシアチブ [BOI]

2025年2月時点で92の企業・団体が参加し、産官学の様々な関係者が集結している。活動は主に5つの分科会に分かれているが、それぞれの取り組みを相互に把握できる仕組みとなっており、多様なパートナーシップの形成が可能である。この仕組みにより、特定の分野に留まらず、相互の活動が連携しながら広がっていくことを目指している。

Blue Ocean Initiativeの参加メンバーイメージ

Blue Ocean Initiativeの参加メンバーイメージ
Blue Ocean Initiativeの参加メンバーイメージ

出展:Blue Ocean Initiative紹介資料を基にABeam Consulting作成

以下に活動中の5つの分科会と2030年の目標、一部の取り組みを示す。対馬市や大阪府の自治体に加え、サラヤ・大和ハウス工業・レンゴーといった企業および多数のスタートアップが連携して活動している。

  • 海洋プラスチック回収手段の確立と再資源化の加速
    (2030目標)沖や浜辺における海洋プラスチック回収手段の確立、海ゴミを活用したサーキュラーエネルギーシステムの開発
    ・廃棄される漁具の回収とアップサイクル、海洋プラスチックのリサイクル材を使用したアイテムの開発
    ・環境教育プログラムの開発 など
  • 持続可能な水産資源管理とサプライチェーンの進化
    (2030目標)天然資源の維持管理と養殖普及のソリューション開発と両立、サプライチェーン全体での適切なマネジメントサイクルの確立
    ・日本におけるIUU漁業対策の国際規格への対応
    ・国内外における水産物のコールドサプライチェーンの構築 など
  • ブルーカーボンの普及促進と関連商品・産業の創出
    (2030目標)カーボンニュートラル実現に向けた、BC認知度向上とビジネスモデル確立、地域特性にあわせた藻場再生活動の推進
    ・藻場再生の手法開発と発信
    ・藻場調査手法開発 など
  • 「海からの観光」の新事業創造と地域創生
    (2030目標)漁業の6次産業化の促進、これまでの発想にない新たな新業態の創出
    ・海業マッチングサイトの開発
    ・水中ドローンの活用促進 など
  • 海洋保全を加速させるソーシャル・コミュニケーション
    (2030目標)世界中の人々の行動変容に繋がる、社会を変えるコミュニケーションの実践
    ・海について学べる本の出版とそれを活用した教育プログラム開発
    ・大阪・関西万博における活動発信 など

現在30近くの活動が進行中であるが、例えばブルーカーボンのための藻場再生の活動が持続可能な水産資源管理に繋がり、またそれが観光資源となる様に、それぞれの活動の連携やさらなる発展も狙いながら活動を行っている。また、海外で活動の場をもつ活動もあり、日本発のユースケース発信を実現しつつある。
アビームコンサルティングは様々な分科会の活動に参画し、課題解決の推進上の共通課題を把握することで、ルールや指針の整理に貢献していく。

Blue Economyの活動推進のために

Blue Economyの活動の中でも、海運の効率化や水産資源保護など産業に直結する分野は活動が進みやすい一方で、海洋プラスチック問題や海洋保全など、経済価値に直接結びつきにくい社会課題の解決は啓発活動にとどまりがちである。
しかし、分野ごとに課題を切り分けるのではなく、包括的に社会課題の解決に取り組むことで新たな経済価値を創出し、継続的な活動へとつなげることが重要である。そのための方策としてBlue Ocean Initiativeの様に幅広い関係者が集い、協力し合えるプラットフォームを活用し、一丸となって活動を行っていくことが有効ではないか。
さらに、内閣府や環境省をはじめとする関係省庁や各自治体など行政との連携も不可欠である。官民が協力しながら課題解決に取り組むことで、より実効性のある施策を推進できるだろう。

2.Blue Economyとスマートシティのデータ連携

Blue Economyにおけるデータ活用の推進

海洋資源の減少、海洋プラスチック汚染、気候変動による海洋生態系の変化など、複雑な問題を解決するために、データを活用し、客観的な分析を行うことが不可欠である。そのため、海洋環境の保全や持続可能な利用を目指す国際的な取り組みでは、近年、データ連携や科学的根拠にもとづく政策決定が重要視されている。
国連が主導する「国連海洋科学の10年(2021-2030)」では、科学的根拠に基づいた解決策を通じて、健全で回復力のある海洋を目指す取り組みが推進されている。しかし、海洋は地球規模で見ても未解明の部分が多く、現状では包括的なデータベース化が十分に進んでいない。
近年では衛星や船舶から取得できるデータを活用し、海水温や海流、水産資源、さらには海洋プラスチックごみの状況を詳細に把握する試みが進んでいる。こうしたデータを活用し、海の保全や持続可能な利用が加速することが期待されている。
また、広範囲におよび海のデータの取得には多額の費用と膨大な労力が必要となるため、一般市民の協力を得てデータ量を増やす取り組みも進められている。例えば、ダイバーや漁師が観測した情報をデータベースに提供する「市民科学(Citizen Science)」の手法が活用され、より多くのデータを集める試みが行われている。

東北大学の生物多様性観測
ANEMONE|環境DNAを利用した生物多様性観測ネットワーク

漁船による藻場調査
藻場分布調査

データベースの構築に関しては、「国連の海洋科学の10年(2021-2030)」のテーマの一つ「開かれた海(Open Ocean)」のもとで様々な単位で取り組みが進められている。
日本においても、海上保安庁の「海洋状況表示システム(海しる)」や内閣府の関連プロジェクトなど、海洋データの蓄積・公開・活用が進みつつあるが、依然として十分とはいえない。しかし、世界的なデータ標準化や連携の流れの中で、日本でもウラノスエコシステムの構築を進められるなど、先行する分野の技術を活用した事例が出始めており、こうした動きが加速すれば急速に普及すると考えられる。
重要なのは、必要なデータは何かを明確にしておくこと、そしてデータ整備が始まった際にすぐに活用に移れる体制を整えておくことである。これにより、データ活用を前提とした海洋問題の解決がより効果的に進むと期待される。

「海洋状況表示システム(海しる)」のデータ連携イメージ

「海洋状況表示システム(海しる)」のデータ連携イメージ
「海洋状況表示システム(海しる)」のデータ連携イメージ

出展:海上保安庁 海のデータ連携についての今後の取組の方向性について

Blue Economyとスマートシティのデータ連携

海洋に関するデータは、Blue Economyにおける活用にとどまらず、スマートシティの施策においても有用である。例えば、洋上風力発電や海上輸送のデータは、エネルギー供給や物流の効率化といった観点から都市計画にも大いに貢献する。また、CO2削減の観点では、海運業界と再生可能エネルギー業界が連携することで、より大きな成果を生み出すことが可能となる。さらに、沿岸部の工業地帯や漁業関係者のみならず、都市部の企業や一般消費者も、海洋資源やエネルギーの利用と無関係ではない。
例えば、日々の漁獲量と気象情報から水揚げされる量を想定し、その輸送の効率化を図ることができる。加えて、漁に必要な物品や燃料の配送も連携させることで漁港周辺の物流全体の最適化が可能となる。また、漁港近くの渋滞緩和や物品・燃料の集積地の効率化を図り、倉庫を加工場や催事場へ転換することで、より付加価値の高い土地の利用を実現できる。
都市が抱える様々な課題に対し都市間だけでなくBlue Economyともデータ連携することで、より効果的な施策の立案や実施が可能になると考えられる。

3.おわりに

複雑かつ範囲の広い課題への対応が求められているスマートシティとBlue Economyは、共通する重要な2つの観点があることを述べてきた。
幅広い関係者が集い継続的な議論を交わす場を設けながら、テクノロジーの進化によって収集された街や海のデータを活用し、施策を立案・実行していくことが今後求められていく。関係性の深い街と海の双方を見ながら活動を進めていくことで、より高度かつ効果的な施策につながるのではないか。
「街」と「海」を結びつける視点を持った人々の活動が、これからの持続可能な社会を構築する鍵となるだろう。

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佐野 政徳

アビームコンサルティング株式会社
未来価値創造戦略ユニット
佐野 政徳

大学卒業後、製造業にて設備の企画・設計・導入に従事。その後、アビームコンサルティング株式会社へ入社。入社後は、欧州のエコデザイン規則案対応の検討、IUU漁業対策の国際規格対応の検討、物流2024年問題への対応検討および実証実験の支援に携わる。これらの経験を通じ、持続可能な社会の実現に向けたトレーサビリティの確保やデータ連携の重要さを認識し、その体制構築に関心を持つ。現在は、衣料品・家電・漁業・物流など多様な業界での経験を活かし、社会課題への対応に関する共通ルールの設定方法を検討すると共に、幅広い関係者をつなぐトレーサビリティやデータ活用の構築方法について取り組んでいる。