データ活用による合意形成の円滑化(地域公共交通を題材として)
伊藤 昇治、渡邉 浩良/KPMGコンサルティング株式会社
2025/02/14
Well-beingを向上するまちづくりを目指すスマートシティの取り組みでは、産官学民の多様なステークホルダーによる合意形成が必要となります。
第3回では地域公共交通を題材に、円滑な合意形成を図るためのデータ活用を元にした取り組み方について事例を交えながらご紹介します。
まちづくりの合意形成課題とは?
Well-beingの向上、つまり身体的・精神的・社会的に満たされた状態を目指す上では、様々なステークホルダーがそれぞれの立場・役割の上で協調・分担しながら活動・活躍できる場や環境づくりが必要となります。
このためには円滑な対話、より良い人間関係と持続的な協調・協力の構築のために、相互理解の向上に努める必要があります。
しかし、それぞれの立場・役割は異なる活動の目的と狙いを持つことから、合意形成の場では解決方向性や施策といった総論は合意できても、各論では利害や考え方などの相違により、具体的なアクション合意形成に進まないケースが見受けられます。
図表1:地域公共交通における意見の食い違い例
出所:KPMGコンサルティング作成
この一つの要因として考えられるのは、それぞれが根拠としている情報源が異なる点、またその情報の分析アプローチやスキルの違いになるものと考えられます。スムーズで納得感のある合意形成のためには、このギャップを埋める努力が必要となります。
図表2:根拠とする情報源の違いについての理解も必要
出所:KPMGコンサルティング作成
課題解決の方向性とは?
この様なギャップを解決するためには、まず、お互いの立場に立って理解向上に努める必要があります。しかし、多くの場合では、発言の背景やその発言(意見)が組織等の総意的であるかどうかなどを理解した上で判断をする必要があるため、利害が食い違う立場同士の相互理解には相応の時間と困難が伴います。
しかし、現在はVUCAと言われる、いわゆる未来が見通せない時代であり、環境変化が非常に早くなっています。日本は、課題先進国として、いままで経験したことがない課題にタイムリーに立ち向かう必要があり、意思決定にかけられる時間も短くなってきています。
そのため、議論を発散させず円滑に進めるためには、客観的に事実を共有できるデータを元にした、課題・要因の根拠や解決策の妥当性を示すことが求められます。ただし、データによって客観的に示すためには、集計・分析・可視化のスキルが必要となり、受け取る側はそれを正しく読み取り、理解ができることが必要となります。
また、使用するデータの品質が確保されている必要もあります。具体的には、その出所や性質、管理方法などが明確に証明できるデータであるか、提示する側・読み取る側の双方が理解している必要があります。(データの品質について詳しくはデジタル庁が公開している「データ品質管理ガイドブック」を参照ください。)
図表3:客観的に事実を共有できるデータを元に根拠を示す/読み取る
出所:KPMGコンサルティング作成
換言すれば、合意形成の場では分かりやすくデータを提示することはもちろん、データを受け取る側も正しく読み取るスキルが求められるため、参加者がデータリテラシーの向上に務めることも大切になります。また、参加者同士でデータ分析等のスキルの成長・向上に努めることで、相互の立場理解が深まり、より良いコミュニケーションやアイデア交換が活発化します。
参加者同士がデータを通して議論を活性化させることは、議論の場が、地域課題解決に向けて意見をぶつけ合うだけではなく、同じ目的を持ちながらそれぞれが主体的に取り組む「オープン」で「フラット」な活動の場へと変容してくことにつながります。
図表4:「新しい公共」の考え方である「多様な主体による協働」 へ変容していく
出所:国土交通省 ウェブサイト「多様な主体による協働」を参考にKPMGコンサルティングが作成
求められる取り組みとは?(当社の取り組み事例)
KPMGコンサルティングでは「人材育成支援」の一環として、実際のデータを用いて、参加者が協働で課題解決を行うワークショップの開催や、地域公共交通の計画類の策定、協議会の運営などを通じて、合意形成に向けたデータ活用に対するリテラシー向上に向けた支援を行っています。
その一つの事例として、国土交通省がさいたま市で実施した「共創・MaaS実証プロジェクト」の人材育成事業における取り組みを紹介します。
この事業では、まずデータ活用の目的や必要性、その在り方についての理解とそのスキルの向上を目的とした座学形式の講義を3回実施し、その後、産官学民のそれぞれの立場の参加者が3つのグループに分かれて協働するワークショップを4回実施しました。
講義では、まず、参加者が主体的に取り組む「オープン」で「フラット」な活動の場へと変容した好事例を紹介しました。続いて、実際のデータ分析から仮説設定までのコツを学んでいただき、バス事業者の方からは、テクノロジーやデータの活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める意義と重要性について講演いただきました。(参照:さいたま市/さいたま市地域交通共創人材・コーディネーター育成事業)
続くワークショップでは、実際に人流データや統計データ、地理情報などを用いて、表計算ソフトや地理情報分析ツールを使いながら、⓪事前準備・予備検討、①目的、②課題、③仮説、④データ、⑤分析、⑥検証のプロセスに従ってグループで協働し、解決策としてのビジネスモデル案のサービス構造をピクト図やビジネスモデルキャンバスを用いて具体化していただきました(図表5参照)。
図表5:データ分析の流れ
出所:国土交通省 「ビッグデータの実践的な利活用への手引き(令和5年3月)」を基にKPMGコンサルティングが作成
図表6:ピクト図、ビジネスモデルキャンバス 考察のポイント
出所:KPMGコンサルティングが作成
ワークショップでは、異なる立場の参加者がデータの分析結果を基に一緒に議論し、アイデアを話し合い、一つのビジネスモデル案を構築していくに連れて、一つの目的に向かって熱量が高まっていく様子が伺えました。
参加者アンケートでは全員から学びがあり今後も取り組んでいきたいというご意見をいただくことができ、まさに皆が主体的に取り組む「オープン」で「フラット」な活動の場へと変容する過程を体現できたと考えています。
今後もこの様な取り組みなどを通じて、テクノロジーやデータの活用による「新しい公共」の場づくりを進めていく予定です。
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KPMGコンサルティング株式会社
ビジネス・イノベーションユニット スマートシティチーム
シニアマネジャー
伊藤 昇治
セキュリティ機器メーカーや自動車メーカーにおいて自動制御システムやソフトウェア開発のほか、評価・検査装置の研究開発等に従事した後、制御システムの統合・連携のための開発プロセス改善や検証手法、自動運転・運行システムやカーシェアサービス連携のシステム開発、機能安全対応プロセス・ツール開発、制御電子プラットフォームの企画開発などに従事。また、地域課題解決を目的としたMaaS実証実験の企画推進や渉外交渉を担当。KPMGコンサルティングではモビリティ、スマートシティ等の業務を推進。
KPMGコンサルティング株式会社
ビジネス・イノベーションユニット スマートシティチーム
シニアマネジャー
渡邉 浩良
観光・旅行系シンクタンクにおいて官公庁や商工会、国際協力機構、政府観光局、市区町村などでの地域振興や誘客関連の調査業務、計画策定業務に従事したほか、中期経営計画策定、新規事業策定、KPI策定業務、デベロッパーやクルーズ会社向けに特定地域における誘客関連調査やマーケティング戦略支援をリード。海外のオンライン旅行会社において、日本向けのローカライズにおけるUXリサーチを担当したほか、大学と民間企業の連携による新規事業開発・実装を担当。KC入社後はスマートシティチームにおいて、モビリティや観光DX関連プロジェクトに従事。