位置情報データが描く未来:LBMA Japanが挑む未来とスマートシティ実装
#1「位置情報データの可能性と課題、そしてLBMA Japanの設立からこの5年間」
川島 邦之/一般社団法人LBMA Japan 代表理事
2025/01/15
LBMA Japan (ロケーションビジネス&マーケティングアソシエーションジャパン)は、位置情報データを活用したビジネス、サービス、マーケティングなどの事業を推進するために2020年に設立された業界団体で、現在90社の事業者が加盟している。LBMA Japanは設立当初の2020年に、位置情報データを取り扱う15社でスタートした。コロナ禍を経て、位置情報データの活用が社会的に重要性を増すにつれ、その取り組みに興味を持つ事業者の加盟が増加し、2021年には27社、2022年には43社、2023年には52社と順調に加盟企業数を伸ばし、2024年には65社、2025年現在では90社が加盟する業界団体へと成長している。この成長は、位置情報データが持つ価値に多くの企業が気付き始めたことを意味すると同時に、LBMA Japanの活動が、ビジネスや社会の課題を解決するための「実践的な場」として認知されつつあると考えている。
第1回では、LBMA Japanの取り組みを通じて、位置情報データがどのようにビジネス化し、そして社会課題を解決していくのか、について述べていきます。第2回では、具体的なスマートシティ実装に向けて、どのように位置情報データが活用できるのか、について記述していきます。
1. 位置情報データの可能性と課題
位置情報データの広がる活用
位置情報データは、私たちの日常生活から生成される膨大な情報の一部である。スマートフォン、カーナビ、スマートウォッチ、ビーコンを始めとしたセンサーデバイスなど、多くの「スマートデバイス」が私たちの移動や滞在を記録し、それを解析することで新たな価値を生み出している。LBMA Japanでは、これらのデータを「デバイスロケーションデータ」と定義し、統計などのビジネス活用を推進している。
デバイスロケーションデータを活用することで、消費者がどこにいるか、どのような行動をとるかを分析し、適切なタイミングで広告を届けることが可能になる。たとえば、ショッピングモールの近くにいる消費者に割引クーポンを送る、観光地周辺で地元の飲食店を紹介するといった、ロケーションターゲティング広告の精度は飛躍的に向上している。
観光においては、訪日外国人旅行者の移動データを解析し、観光地間の動線を把握することで、地域観光施策の立案が可能となる。特定のエリアにおける宿泊施設の需要や観光資源の活用方法についても、データに基づいて決定することが進められている。
小売業でも位置情報を基に来店者の店内行動動線を把握し、店舗レイアウトの改善や、来店者の来店前後行動パターンを把握するなど、販促活動の効果測定に活用されている。
都市部においては、人流データを活用して、交通渋滞の緩和や公共交通機関の運行計画の最適化を進めることができる。
さらに災害時には、避難者の移動データをリアルタイムで把握し、安全な避難経路を提供することも可能だ。過去のデータを分析することで、災害発生時のパターンを予測し、事前の防災計画に活かすこともできる。
GX(グリーントランスフォーメーション)への取り組み
LBMA Japanは、脱炭素社会の実現に向けた取り組みとして「Location-GXプロジェクト」を展開している。 (第2回にて詳細)
法的課題
位置情報データを巡る法的課題の一つは、それが「個人情報」として扱われるかどうかの判断だ。LBMA Japanが設立された2020年2月当時の個人情報保護法では、位置情報データの明確な定義はなされていなかった。2022年に改正された個人情報保護法では、特定の個人を識別できるデータは「個人情報」に該当し、厳格な管理が求められている。しかし、位置情報は匿名化されることで個人情報の範疇を外れる場合もある。
この匿名化が十分に行われない場合、他のデータと組み合わせることで個人を特定できるリスクが指摘されている。特に、スマートフォンのGPSデータなど、細かい位置情報を含むデータは、悪用されれば重大なプライバシー侵害につながる可能性がある。
倫理的課題
もう一つの課題は、データの倫理的利用だ。たとえ匿名化されたデータであっても、消費者の同意なく利用されれば信頼を損ねることになる。特に、データの収集目的が不明確である場合や、利用者がその利用方法を十分に理解していない場合は、データ提供者と利用者の間に大きな溝が生まれる。
2. LBMA Japanの設立と初期活動
LBMA Japanの設立背景
第2章で述べた位置 情報データの利用をめぐる課題が顕在化していく中で、位置情報データを取り扱う15社が集結してLBMA Japanを設立した。その背景には、第2章で述べたような位置情報データの利活用を進める企業、およびその顧客が、法的リスク、「炎上」を恐れてビジネス展開に慎重になっている状況があった。こうした状況を踏まえて、LBMA Japanが初期に取り組んだのが、「位置情報データ利活用に伴う共通ガイドライン」の策定だった。このガイドラインは、位置情報データを扱う企業が遵守すべき基本的な原則を明確にし、業界全体の信頼性向上を図るものである。
個人情報保護法が位置情報データに関わる法律を整備する前ではあったが、法曹界、ELSI関連のアカデミア含めさまざまなステークホルダーと協議の上での発表となった。
ガイドラインのポイント
位置情報データを利用する際には、個人が特定されないよう適切な匿名化を行うことを求めている。データの利用目的を明確にし、利用者にその意図を伝えることで、透明性を確保する。
また、データが不正利用されないよう、厳格な管理体制を敷くことを企業に義務付けている。データ利用が社会にどのような影響を与えるかを常に考慮し、倫理的な判断を行うことを重要視している。
「人流データ」の社会的役割
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、位置情報データが感染防止対策の一環として注目された。テレビニュースや報道では、都市部の人流データが頻繁に取り上げられた。「渋谷の人出は昨日に比べて10%減少」「大阪の繁華街では人流が20%増加」など、こうした情報は都市の動向をリアルタイムで示し、感染拡大防止策の基盤となった。人流データとは、スマートフォンの位置情報を統計データとしてつなぎ合わせたものであり、当然個人情報は一切伴わない。「4月21日に渋谷に100,000台のスマートフォンが存在していた」ことと、「4月22日に渋谷に90,000台のスマートフォンが存在していた」ことを比較し、人出の増減を表したものである。
今では一般化した「人流」という言葉自体も、この際に生まれたものである。
株式会社Agoop(東京都港区)を始め、LBMA Japanの加盟企業は、この時期に感染対策向けの人流データをオープンデータとして一般に無償提供していた。これらのデータは自治体や研究機関が感染防止策を立案する際の重要な情報源となった。
人流データの活用が進む中で、LBMA Japanは「デバイスロケーションデータ」という新しい概念を提唱した。これは、個々のスマートフォンやデバイスから取得される匿名化されたデータを指し、個人を特定しないことを強調したものだ。この概念を社会に浸透させることで、データ利用への不安を和らげ、信頼を構築した。
LBMA Japanの取り組みは、データが単なる商業的ツールではなく、社会課題の解決にも役立つことを示す一つの証拠となった。
3. LBMA Japanの成長と「共創」のビジョン
LBMA Japanは、設立当初の2020年に15社でスタートした。しかし、位置情報データの活用が社会的に重要性を増すにつれ、その取り組みに興味を持つ事業者が急速に増加した。そして2025年現在では90社が参画する業界団体へと成長している。
ビジネス団体としての独自性
LBMA Japanは、いわゆる技術標準化を進める団体ではない。技術的な枠組みを設計するよりも、位置情報データを活用するための倫理的指針や実務的なノウハウを共有し、企業が安心してビジネスを展開できる環境を整えることに注力している。
同時に、ビジネス団体としての本質的な使命を見失うことはない。データビジネスは、収益を生み出してこそ継続できる。社会課題の解決に取り組むためには、参加企業が健全なビジネスモデルを構築し、その活動が持続可能なものでなければならない。
「お金儲けができていなければ、課題に向き合う人々が生活を維持できず、事業そのものも長続きしない」。LBMA Japanはこの現実を直視し、加盟企業が収益を確保できるよう、費用対効果の高い活動を設計している。
共創の場としてのLBMA Japan
参画企業の増加は、団体にとって喜ばしい一方で、新たな課題も生み出す。企業数が増えることで、これまで想定されなかった事象や事例が発生し、1社では解決が難しい問題に直面することもある。こうした状況を解決していくためにも、LBMA Japanでは「共創」の理念を掲げている。
「異業種間のコラボレーションこそが、新しい解決策を生む」。LBMA Japanは、参加企業がそれぞれの専門性や視点を持ち寄ることで、一社では乗り越えられない課題を解決し、新たなイノベーションの種を見つけ出す場を提供している。この理念は、単なる業界団体の枠を超えた存在価値を生んでいる。
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一般社団法人LBMA Japan 代表理事 川島 邦之
一般社団法人LBMA Japan 代表理事。東京都出身。米ニューヨーク州立大学Plattsburgh校卒。米ヒューストン・シリコンバレーでのモバイル関連の営業・インキュベーション事業を経て、日本にてモバイル関連のベンチャー領域に於いて事業開発に従事。